季節の唄



あいつは歌ってた。
いつも、屋上で歌ってた。
幼馴染だったんだ。

中二の春に埋めたタイムカプセル。
クラス全員で書いた色紙。
あいつの夢は、歌手になることだった。
あの事件があってからも、あいつは変わらず、屋上にいた。
中二の秋だった。

『いじめ』としか言いようのなかった。
黙ってみてるしかなかった。
自分が大事で大切で、だから、止めることすらできなくて…。
 

秋だった。
紅葉がきれいで、少し肌寒くなってきた朝だった。
あいつは歌ってた。
何の変わりもなくて。あの屋上で。
でも、こっちを向いたあいつと、目をあわすこともできなかった。
昔は、ほんの少し前までは普通に、笑って話せたはずなのに。
俺は、笑えなかった。
顔が凍りついて、ぎこちなく歪んでいたと思う。

だけど、あいつは笑っていた。
泣きながら「もう疲れた」と言って笑っていた。
あいつの体を支えていたものが、折れたようにみえた。
初めて見た、あいつの涙だった。

あいつの心が限界に達しているのが俺にもわかった。
泣き止んだあいつは、「バイバイ」といって俺の横をすり抜けていった。


次の日、あいつはこの世にはもういなかった。
遺書を残して逝った。
だけど、遺書の中にはひと言もいじめられたことなど、書いてなかった。
真実を言うやつは、誰ひとりとしていなかった。
いつのまにか生まれた、異常な連帯感が俺たちを縛ってた。
裏切りの代償が怖かった。
結局、あいつの死はただの自殺となった。

俺たちは、この真実を心の奥深くにしまいこんだ。
思い出してはいけなかった。
しばらくの間、俺はあのときのあいつの笑顔が頭から離れなかった。
タイムカプセルは、5年後の同窓会のときにみんなで開けようと約束していた。
 

もう、すぐそこまで同窓会の日が迫っていた。
俺はどうすればいいんだろう…。
目の前に置いた出欠の葉書は、目を瞑っても消えることは無かった。




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